【薬指への道】第4話 忍び寄るスピリチャルの女(ひと)

30歳になってから「結婚したい」と決意して婚活を始めて、唯一の成功に至るまでに繰り返された失恋・失敗の記録をご紹介していく【薬指への道】。今回は第4話です、今回も婚活の一環ではありますが昔の失恋話というよりもちょっとジャンルが変わりそうですがやはり過去があって今があるわけだし、個人的には『自分史上一番すべらない話』なのでぜひご紹介させて頂きましょう。是非、この失敗談を糧に婚活へ進んでいただきたい。そんな思いで書いております。言わずもがなですが、今回も勝つ気満々で臨んでおりますのであしからず。

時は2010年、9月の話です。てるみくらぶという知る人ぞ知る曰く付きの旅行会社(笑)を退社して無職状態が1年以上続いていた時の話です。その年の12月に別の会社へ転職してますので、その時はバイトをしながら職探しをして居た状態です。その仕事はテレフォンアポインターで埼玉の大宮から京王線の笹塚まで行って、お客さんからの問い合わせにマニュアルを使って答えるという1週間限定の短期バイトでした。

今回のヒロインは名前をすっかり忘れたので富美加ってことにしておきます。私が短期契約でしたが富美加はその会社のレギュラーバイトでたまたまその勤務が一緒で研修の時にデスクが隣。高校を卒業後に声優を目指して上京、代々木アニメーション学院に通学中、声優につながる仕事という事でテレアポのバイトをしてるという分かりやすくアニメ声の女子だった。

そのバイトは火曜日に研修、水~金曜日が実際の勤務で人数が必要だったら翌週の月曜日もお願いしますという契約で、火曜日の研修帰りに笹塚駅でばったり会って新宿までの短い間話す。別れ際不意に富美加から「連絡先交換しませんか?」と言われる。女子の方から連絡先を聞かれるなんてシチュエーションの経験があまりない上に、同じシチュエーションが続いて起きていた。

そんな稀有な状況に慌てふためき、自分を鼓舞するように「モテキが俺に来た」なんて事を声を大にしてTwitterで叫んでた。そして、自分の中で信頼のおける女子達に「この状況はモテキなんじゃないか?」なんて事を問うてみたりした。みんなから得た結論は「気があるかどうかなんてのはその人次第じゃない」なんて言う結論が多かった。

富美加からは交換した火曜日のうちにメールがやってきた。やっているバイトが契約上で翌週まで延びる可能性はあったがシフトの関係で富美加は木曜日まで同じ業務だが金曜日は休みだったそうだ。メール交換して別れるのも寂しいので「(同じ業務の最終日である)木曜日に夕飯でも食べませんか?」と誘ってみた。そしたら、予想以上に好感触で木曜日はだめだった、でも休みの金曜日に食事をする事になった。

金曜日、こちらのバイトが終わり、池袋駅で富美加と落ち合う。池袋は大学時代ホームグラウンドであったけれども、ラーメン屋とかグループ系の居酒屋くらいしか知らない中で富美加が行きつけの店があると言うのでその流れに乗って、池袋のほぼ中心にありそうな場所にあるオムライス屋「ラケル」に入る。


駅から店までの間に色んな話をする。富美加とは研修の時間以外でも昼休みとかに、自分が職探しをしていて中々縁遠く見付からずにかれこれ1年以上無職である等の話をしていた事もあり、「今どんな会社を受けてるんですか?」「どんな基準で企業を選んでるんですか?」なんて話をしながら店へ向かう。富美加曰く、ラケルは「男性の友人に紹介してもらったお店なんで男の人が気に入ってくれるかどうか」なんて事を言ってた。店はサンシャインシティへとつながる大通りにつながる交差点手前のビル地下にあり、そそくさと階段を下り店に入る。ラケル自体は有名店で渋谷にもあり、何度か行った事のある店だった。味は折り紙つきの店だった。

俺は池袋の中心で女に誘われた。しかも、宗教の勧誘だった。

料理を頼み、その後も話は続く「島田さんは結構喋る人なんですか?」なんて言われる。それはある意味伏線であり、牽制だったのかもしれない。色々聞かれて答えた末に、急に富美加のスイッチが入った。その話は人間の行動は大きく10個に分類されてそれぞれが順位付けができるという話だった。

前回類似した話があったが私を知らない方の為に説明しておこう。私は喋りたいことを喋って喋り倒す、そしてとんでもなく早口。大勢の会話でも何かのタイミングでそのトークに入って喋ってやろうと思う人間だ。それを女性を紹介してくれた職場の同僚から指摘されたというのが前回お話した内容だったがその話から1年と4ヶ月経ってるが人間はそんなに変わっていない。

富美加の話を覚えていることだけ綴ってみよう。人間の行動は大きく10個に分類されているけれども、それぞれ優先順位があるという。

「島田さん、やってはならない事とやった方が良い事はなんだと思いますか?」と富美加に聞かれる。

『やっぱり他人への妬み嫉みとかはきっとよくない事でしょうね』

「おっしゃる通りですね、そういう悪い心を持つことは良くない事です。じゃあ、逆にやった方が良い事は?一位を予想してみてくださいよ。」

「それは向上心を持つことじゃないですか」

その答えに頷きながら富美加は答えてくれた。それは残念ながら1位じゃないのだという。そこから富美加によるやった方が良い行いカウントダウンが始まる。俺はスイッチの入った富美加に合いの手も入れられなかった。そして、なにか抑揚のない様な国語の授業で指された誰かが読むような文章の朗読を聞いてるようだった。紛れもない、彼女の脳には原稿用紙何枚ぶんかのしっかりとしたマニュアルが埋め込まれているようだ。
 

実は木曜日の食事会を前に妹をはじめ信頼できる人達に聞いていた。

「これさ、宗教の勧誘とかで壺と買売るんじゃないよね?」って話を妹にした時に『でも、その女性って特別な美人じゃないでしょ?だったら、美人局(つつもたせ)じゃないから大丈夫』なんて回答を得ていた。大体、知らない人と会う時、久々の友人と会う時に必ず『高価な壺を売ってきたらどうするか?』なんて事を考える。でも、その一言で若干警戒を解いて、富美加を誘った所もある。

私が一位を予想した「向上心」は全体の6位であった。朗読風な文章を聞き、半分まで来た6位で富美加は中座して携帯電話を持ってトイレに行った。「行きつけ店」の筈なのに、なぜか彼女はトイレを探していた。その時に疑っていた宗教説を思い出し、富美加がトイレへ携帯を手に行った理由を考えていた。その時点で二人は料理を食べ終えてデザートを待っている時間だった。

それはすなわち、GOサインだと判断した。この店に急に彼女の知り合いが偶然やって来て、俺は四面楚歌になって拉致される。極端な話、そこまでの想定をする事にした。トイレに行っている間に自分の携帯電話に目をやる、携帯は圏外だった。もしかすると、このディナーが地下で行われる事さえも、ドコモ携帯が圏外である事を計算していたんじゃないかという疑念も持ち始めた。大事なのはどのタイミングで帰るか、仲間が来られる前に、そして、急に帰ると言いだして富美加が奇声を発したらどうするか?等のイメージトレーニングを始める。

 
トイレから戻って来た富美加のトークショーはまだ続く、カウントダウンは5位から1位までの発表だ。残念ながら5位から2位までは覚えていない1位の話が濃すぎていたからだ。1位は『運を作る力』であった。運を作る力についての詳細は置いて置いて、1位の発表のあと彼女は「私の一生を明るく導いてくれる教え」について語りながら彼女の話はその後に彼女の信じている教えを解くきっかけとなった偉い人の話をし始める。

名前をマシリト和尚という。勿論名前は宗教の特定を避けるために偽名を使う。出典はDr.スランプのマシリト博士である。そして、和尚というのも実際のその方のランクとは大違いである。日本の新興宗教の勧誘である、みんなが信じる様な人間が和尚と言う位である筈もない。はそんなマシリト和尚の伝説を話してみせる。まだ、源氏が日本を制圧していた頃に和尚が起こした奇跡を伝説として語る。

そして、和尚の起こした奇跡を世界的に有名な宗教家との比較で語る。その名はイエス・キリストである。

『イエスはみんなに神様だと言われているけれども、結局は弟子に裏切られて、人に殺されてしまうでしょ。でもマシリト和尚様は神様でいらっしゃるから人の手でどうにかなるような存在ではない』と力説されます。

ちなみに、宗教に関してはちょっと詳しいので言ってしまうと、イエス・キリストは神ではなくて髪の預言者である筈。でも、そのことに関しては敢えて突っ込まない事にしました。

一般的な歴史好きにはマシリト和尚は、ともすればマシリトと呼び捨てにされるような存在なわけですが、富美加は信じるあまり、マシリトに関しての説明には「マシリト和尚様」と呼び、一挙手一投足全て尊敬語で表現していた。

ちなみに、その後、もう1回キリスト批判をするんだけれども、そこで「でも、イエスは常人とは思えないような奇跡を起こした預言者ですよね」なんて触れてみたら、マシンガントークをしていた富美加の言葉が止まった。弾薬交換でもしてたんだろうか(笑)。

とりあえず、この場を脱出する策を考えた末に、俺は電波の届かない携帯電話がバイブレーションで着信を受けたふりをする。そして、携帯に目をやり、このように彼女に告げたのは19:50.

「今日、うちの両親が母方の実家に行ってるんだけど、どっちも泥酔してしまって迎えに来いと親戚に今言われたので20時には帰ります」

なんで、すぐに出るとは言わなかったかはよく分からない。でも、富美加は20時解散に納得する。それを踏まえて、富美加はこのトークのクロージングを始める。ここまでの話は宗教勧誘ではなくて、あくまでその「マシリト和尚様が日本の為に手をかけて下さった奇跡の数々」とその教えに基づいて人生に自信を持てた富美加の話でしかない。ここからが宗教勧誘である。

よく「運を持ってる」なんて世間で言われていますよね(2010年はハンカチ王子こと斎藤佑樹が大学4年時でどのプロ野球チームに入団するかと言われていた頃)、そういう人って生まれていた時点で決まった量しか運を持てないと思う人達なんです。よく言いますよね『運を使い果たした』って。そういう人は若いうちに運が良かったら、その後は運が悪いってことになっちゃいますよね。私を変えてくれた、マシリト和尚様の教えから生まれた日々の修業でこういう事を学んでいるんです。

【運は使い果たしても作り出せるものだって】

就職で困っている島田さんにきっと役立つものだと思っているんです。私たちの律動体操会(この名前も勿論嘘です)に参加してみませんか?どうですか?』

なんて聞かれました。もちろん、ハナから断る気満々だったけど、普通に「神様は信じない」って答えると絶対に反撃を食らうので、もっと返しづらい言葉を返そうと思ってある言葉を選んだ。それは俺の根底にある言葉であり、とてもブログやツイッターでも、ましてや現実でも到底話す事はないと思っていた言葉だった。

「残念ですが神様って祈っても、就職も出来なければ、好きな人とも付き合えないもんで、信じられないんですよね。そして、余り行った事はないですけど、自分の人生全てにおいて、判断基準は自分なわけで

『俺は自分を神だと思ってる』

だから、神様にすがるっていうのは必要ないかなって思ってるからやるつもりはないです。」

と押し切った。うろたえた富美加、無理もない。信じている神様に全てを尽くしていて、その仲間として勧誘した男が急に「俺こそが神だ」と言いだしたのだから。そもそも、池袋の週末金曜日という盛り上がっている時間帯のおしゃれなオムレツ屋の店内で新興宗教に誘う女子に対して、自分は神様だから仲間になるつもりはないと答える男の会話なんて滅多に聞けない。周りにいた人が羨ましい(笑)。

彼女は、もうすぐ20時と時計を気にする俺に「じゃあ、せめてこれを読んで下さい」なんて2冊の本を取り出した。その本は本と言ってもハードカバーではなく、自動車教習所の学科教本もしくはちょっと良い私立高校が出しそうな卒業文集の様な体裁で、中の紙はわら半紙の様なざらざらした風合いのもの。

更に表紙いっぱいに『どうしようもない僕に天使が下りて来た、愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』と言った感じのやたらめったら長いタイトルが書かれていた。そして、もう1冊にも「WOW WAR TONIGHT~時に派起こせよムーブメント、愛を語るより口づけをかわそう~」的な別の長いタイトルが書かれていた。

 
「これを読めば人生が変わる」なんて、アドバイスをしてくれた富美加、どうやら彼女は俺の事を神だと認めていないらしい(笑)。

そこから改札で別れるまで、彼女はタイトルの長い2冊の本を読んで欲しいと言う話ばかりで、一切自分の話をしなかった、いや一切ではなかった。福岡から専門学校に通うために上京して、「この冷たい東京で私が人を信じれるようになったというのは、律動体操会のおかげなんです」って何度も言ってた。実際、そういう新興宗教って、地方から東京にやって来て心のよりどころのない人が、仲間を作ることから信心深くなっていくと言う。

 実は、新興宗教に関する本を興味本位で購入した事がある。一回、本気で宗教を作るにはどうすればいいんだろうなんて事を思った事があって、買ったんだけどその本に律動体操会って言う名前はあった(くどいがあくまで仮称)。結構その名前が序盤に出た辺りに「その名前知ってますか?」なんて聞かれて知らんふりをしてたけど、実は知ってた。「本にある教団だ」って思ってた。

 もしかしたら、金曜の夜だったから、ちょっと時間が経つといざとなったら富美加が桃色作戦を決行してしまい、罠に落ちた俺が気付いたら、律動体操会の道場で「花と蛇」ばりに縛られてしまったのかもしれない。言わせてもらえるなら、今回は俺の準備勝ちだったと思う。ましてや、律動体操会って言う新興宗教の信者に対して、神様だと自分で名乗ってる奴、格で言えば力の差は当然じゃないか(笑)。

個人的には帰りの電車で自らを神と称した事に悦に浸っている自分がいた。その昔ある雑誌で読んだことのあるジョン・レノンの「ビートルズはキリストより有名」発言を思い出し、こんなこと言いだしたのはジョン・レノン以来自分が初めてなんじゃないかとさえ思った。

自分は声に惚れることもあり、富美加は惚れる声の持ち主だった。また、連絡しますと言われたけど、一切連絡は来なかった。そこから今は11年経って声優になれたんだろうか。

自称・神だと名乗ってから、落ち着いた頃には自宅の最寄り駅についていた。妹に電話をした。相談にも乗ってくれたから、ご報告をとばかりに「かなり面白いぜ」って枕に話をした。実際に勧誘された宗教団体も含めて報告してみる。妹曰く『告白してから4カ月も待たされてふられたり(これは別の話)とか、連絡先貰ったら宗教の勧誘だったりとか、今年は女難の相があるんじゃないか』って言われた。

で、色んな話を照合して言った結果、妹の彼氏も同じ宗教団体に勧誘をされた事があるという事が分かった。彼氏は職場の同僚がそこの会員で囲まれて勧誘して、結果その会社を辞めたらしい。その時点で同棲をしていて、彼にしてみれば「彼女の兄が妹に一緒に食事へ誘った女子から宗教勧誘をされた報告」という奇妙な光景を見ていたわけだが、どうして同じ宗教団体だと分かったのか?電話口でその話を聞いて彼女(私の妹)にふざけながらこう言ったからだった。

「もしかして、律動体操会だったりして」

奇妙な偶然なものだ、でも彼氏は「自分は神様」とは言わなかったらしい(笑)。


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投稿者: shakson5

しまだくらぶです。生まれも育ちも住いも埼玉県の昭和54年早生まれの40代です。婚活の歴史とか趣味のDJとか色々お話して、皆さんの暇潰し等のお役に立ちたくてブログを書いております。

【薬指への道】第4話 忍び寄るスピリチャルの女(ひと)」に2件のコメントがあります

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